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花咲か日記

2018年12月14日

忘れてしまうけれど 後編


老婦の歩みは止まらない

その華奢な身体のどこにそんなエネルギーがあるのか
ずんずん歩いてゆく


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「膝が少し悪いんです」
背広の青年はそう言っていたが そんな気配はみじんもなかった


私も急ぎ足で歩きながら老婦に尋ねる

「 どこに行かれるんですか?
娘さんの住まい お分かりになるんですか?」


「分ります 大丈夫です
もう1人で行かれますから」

「でも私 やっぱりマンションまでご一緒します」

婦人はちらりと私を見て 戸惑ったような顔を見せたが
歩調を緩めることなく歩き続けた


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彼女の歩みが止まったのは 駅ビルのショッピングモールを抜けた所だった

「どうされました?
道 わかりますか?」

老婦は力なく 「わからない」 と答え
私は少なからずうろたえたが

彼女はすぐに思い直したように
「でも大丈夫です」 と言うと また猛烈な速さで歩き始めた


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「とにかく ちょっと ここで休みましょう」

やっとのことで婦人をとめ
娘さんのマンションの名がわかるかと尋ねてみた

老婦は 少し考えたあと マンションの名前を口にしたが
元々土地勘のない私に場所がわかるはずもない

さてどうしたものかと思案していたら
60代後半くらいだろうか

ふっくらとした人の良さそうな女性が 声をかけてくれた

どうしたんですか? 道に迷ったんですか?

あぁ 助かった

事情を説明し
老婦の教えてくれたマンションンを知っているかと尋ねてみた

聞いたことがないと女性は答え
近くに交番があるから行ってみてはどうかと勧められた

それはいい
よかった これで問題は解決だ

ところが老婦は 交番には絶対に行かないと言う

1人で行かれるから大丈夫 の一点張りなのだ

ふっくらとした女性は 私を見てゆっくりと首を横に振り

「私が交番に行って事情を説明して来ます」と言ってくれた

ありがたい

「じゃあ それまで私がここに引き留めておきますから」


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女性はなかなか戻って来なかった

苛立ちを抑えきれない様子の老婦を その場に引き留めるのは
予想以上に骨の折れることだった

寒いと言う老婦

着ていたダウンジャケットを脱ごうとすると
「そんなことはしないでください」 と強く断られた

他人に迷惑をかけてはいけないと 育てられてきた世代なのだろう

ピンと伸びた背筋や 上品な物腰 自立した態度は
彼女がしっかりと人生を歩んできたことを証明しているように思えた


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突然老婦が なにかに気づいたようだ

「あれです!」
彼女の視線の先には 高層ビルが2つ並んでいる

「娘が待っているから 行きます」

もしかしたら思い出したのかもしれない
でも間違いでないという確証はないし 先ほどの女性のこともある

なんとか女性が戻って来るまでは待って欲しいとなだめ
老婦を引きとめた


「どうして そんなにしてくれるんですか?」

探るような目を見つめ返しならが 私は答えた

「私ね リムジンバスを待っているときに 隣に居た男性に
バス停で娘さんが待っていると聞いているんですよ

でも 娘さんはいらっしゃらなかった

だから そのまま別れるなんて 私にはできないんです」


老婦はキョトンとして私を見つめた

彼女は男性のことを もうすっかり忘れていた


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交番に向かった女性と別れてから
15分くらいは経っていただろうか

今度は初老の男性に声をかけられた

「どうしたの? 道に迷った?」

再び事情を説明して こういうマンションを知らないかと尋ねたが
やはりその男性にも心当たりはなかった

老婦は指を指す
「あの建物なんです」

「あれなら僕の住んでるマンションだ
〇〇〇〇〇っていうんだよ 名前が違うなぁ」

老婦はそれを聞いてバッグから宅配の送り状を取り出した

男性は驚いたように

「〇〇〇〇って書いてあるじゃない
同じマンションだ
しかもこれ 僕のひとつ上の階だよ」

なんという偶然 こんなこともあるんだ

老婦は名前こそ間違ってはいたが
娘さんの暮らすマンションを ちゃんと見つけていたのだ

そこにちょうど 先ほどの女性が戻って来て
交番は1人勤務だから その場を離れることはできないと言われたと話してくれた



老婦は皆に礼を言い もう1人で大丈夫だと言ったが

マンションに入るのも 簡単じゃないからと
男性が付き添ってくれることになった

よかった
この人になら任せられる

「 じゃあ すみませんが あとのこと よろしくお願いします」


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老婦は私に向かって深々と礼をし
「ありがとうございました」と何度も繰り返した

とにかく よかった

もしかしたら 娘さんと会う頃には
私のこともすっかり忘れているかもしれないけれど
そんなことは大したことじゃない


さあ 私も早く娘の所に行かなきゃ






これで老婦と私とのお話はおしまいです

先後までお付き合いくださって ほんとうに ありがとうございました

今日が皆様にとって すてきな1日でありますように






コメント

あ~良かった~!!やれやれでしたね~!!
お年を重ねられた分 プライドもある老婦の方は、御自身でも最近の事を忘れ易くなっている自分に気がついておられるのかも知れない。でも娘さん宅に行く道中たまたま親切な人に出会えて幸運でした。おまさちゃんの優しさと勇気、私だーいすきよ。(笑)お疲れさまでした!!!

344akemi 様

ホントによかった
一時はどうなるかとハラハラしました
それにしても まさか同じマンションの 同じ棟の
1階下に住む方に声をかけていただけるとは‥
おばあちゃま 強運の持ち主でした

声をかけてくれた初老の男性にも 女性にも 心から感謝しています
名前も知らない人達だけれど 忘れたくないな

わあ〜 やさしい おまささんに出会えて 幸運でしたね〜
それにしても 幾人か 声を変えてくれる方がいる、、ということは
日本はまだまだ 素敵な国だ〜
わたしも むかし おばあさまが 道できょとんとsて立ち止まっていて、、
声をかえると すぐご近所のお宅の方でしたが 道を見失い〜
でも お宅迄送り届けたときに 「ぜったい うちの者に 言わないでくださいね」と
念をおされて すこし 切ない思い、、
きっと きつく 一人で 出歩かない、、と言われているのでしょうけど
出てみたくなったのでしょうね〜

katananke05 様

幸運だったのは 同じマンションの住居者に出会えたことと
交番まで足を運ぶほどの親切な女性にめぐり会えたことだったと思います
そう 日本はまだまだ捨てたもんじゃない

しっかりされたいた方が病気で壊れていくのをみるのは
とても辛いことですよね
身内なら きっとなおさらでしょう
せめてもの慰めは 周囲のやさしい思いやり
本人にとっても ご家族にとっても それが大きな救いになるような気がします

このような前編、後編にわたる
ハラハラするドラマがあったのですね・・・
ハッピーエンドで良かったです。

優しいおまささんの勇気ある行動と
最後まで見届ける責任感が
他の優しい人達を引き寄せたの
でしょうね・・・。
その老婦人の方は、幸運でした。
そして、
年齢を重ねることの切なさも感じました。
心細さと人に頼らずになんとかしたいという
心の葛藤があったことでしょう・・・。

娘さんがこのことを知る事があるか
わかりませんが、
無事に来れたことに
驚きと感謝を感じたことでしょうね。
優しさの連鎖のお話は、
ほっとします。

くたくたに疲れた週末の金曜日

おまささんのお話を読んで とてもすがすがしい気持ちになり
なんだか ほっと一息ついて これから ゆったりと寝て 気持ちよく土曜日を迎えられそうです
 
お話に登場した人がみな優しくて うれしいです
老いていくこと かつての自分ではなくなっていくことの怖さ、さびしさ
悲しさ・・・をかんじつつ それを包んでくれる人のいつ温かさが胸にしみました

私の90を超えるおばも 親戚の葬儀に参加するために一人 札幌にやってきて  一晩ホテルに泊まってから翌日に帰る予定を突如変更
 飛行機に乗って帰ると言い出し 
一人空港に向かってしまいました それをいいおじさんになったいとこ二人が追跡して 東京までおいかけたという 笑っていいんだかわるいんだかみたいなエピソードがありました  小さい頃みんなをかわいがってくれたおばさんだから みんなが一生懸命でした

ここよこ様

私のアプローチはあまり上手と言えませんでした
もっと別のやり方があったのではないかと 今も時々思い返しています

若い頃は老いていくということに鈍感でした
忘れっぽくなったり 体のあちこちにガタがきたり
そういうことを受け入れながら毎日を過ごすようになって
初めて見えてくるものもあるんですね

ご婦人の心の葛藤は 切ないものでした
いずれ たどる道‥
あのご婦人は 今頃どうしていらっしゃるでしょうか

ソフィー様

そう言っていただけると ほんとうに嬉しいです
まとまりのない話をダラダラと書き綴ったので 正直心配していました

90歳を超えるおばさま お一人でいらして お一人で空港まで‥
二人の甥っ子さんを引き連れて 東京の街を歩いていらっしゃるお姿が思い浮かぶようです
私の母は85になりましたが 膝と腰を痛め思うように動けません
齢を重ねることで できなくなることが増えてゆくのは寂しいことです
それでも人生捨てたもんじゃない
母は今も たくさんの人の思いやりに支えられて 毎日を笑顔で過ごしています
私も笑って毎日を過ごせるといいなー

今日がソフィーさんにとって すてきな土曜日になりますように!

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